見過ごしている、ケタ違いの成長軌道のポイント

平凡な会社をケタ違いの成長軌道に乗せる経営で重要ポイント以下2点について考え方、エッセンスとそれを見出した出来事ともにお伝えします。

12.「経営者として、皆さんのことを誇りに思います」と社長が言った。

「経営者として、皆さんのことを誇りに思います」と社長が言った。
そこに集まった立場の異なるメンバー12名が感動して、思わず一斉に拍手した。


 令和5年1月12日物流会社A社の企業内大学卒業認定報告会での出来事です。

今からこの感動的な場面の説明をします。

 A社の経営方針には、価格競争ではなく、物流品質・ドライバー品質の差別化で競争優位を築こうという一項目があり、現場職及び管理・間接職の社員教育全般に力を入れてきました。

 外部講師を招いたり、大手企業の教育部門の責任者を採用したり、都内の研修機関に多くの社員を参加させたりと様々な手立てを打ってきました。しかし、成果がでないというわけではないのですが、社長のイメージ・求めるものとどこか違うもどかしさが残りました。

 

 そこで、あれこれ考え外部依存するより、いっそのこと会社の中に自前の教育機関・物流大学を創ろうという決断に至ったのです。

 

 大学と言っても校舎は会社の会議室、キャンパスは物流センターの現場、講師は社内人財で内部調達が基本です。コースは●小グループのリーダークラス●カテゴリー別のリーダークラス●責任者の補佐クラス●責任者クラスの4コースがあり、独自なネーミングで社内に浸透しています。

 企画当初は、社長も皆と同じ受講生で始めた「経営塾」、そこから今期で15年経過し、各コースで重複はしますが、卒業生の累計は500名近くになり、卒業生の定着率は95%を超えています。

新卒者対象の会社説明会でも「御社の企業内大学って何ですか」という質問が一番多く、描いていたイメージに近い成果がようやく形になってきたところです。

 

 はじめに紹介した一場面は、一番上の責任者クラスの卒業を認めるかを判定するための最終報告会でした。全員で6名の一般企業で言う部長クラス、平均年齢は40代前半のメンバーが2チームに分かれて課題に取り組みました。

 課題は「社員がもっと会社を好きになる(誇りが持てる、希望や夢が膨らむ)

企画であり、会社の沿革に載せられる取り組み・実績」ですから、自由な反面とても過酷なテーマです。

 

 具体的な構想から実行、成果測定まで与えられた期間は2年間、2か月に一度2時間程度の相談会があるだけで、後はチームの自主活動です。必要な予算は根拠を示し、稟議に掛けられますが優先的に承認が得られます。

 

 キックオフしてから数カ月でコロナ禍に入って、活動に対する制限が多くなり、本来の自分の業務も多忙を極め、結果として活動期間は4年間に及びました。 

小さな企画ならともかく、2チームがそれぞれ取り組んだのは新規事業の立ち上げに匹敵する大きなテーマでした。 

 普通なら頓挫しても仕方ない状況の中で、2年間経過時点で2チームとも取り組み期間の延長を熱心に申し出て承認され、はるかなゴールに向けて急勾配の斜面のような挑戦に粘り強く取り組み続けました。

 

 大まかに2チームが取り組んだテーマをご紹介します。

仮称Sチームのテーマは、

■関東と関西を一気通貫する自社路線を通し、当社のトラックを西日本に走らせる。(東名高速に自社のロゴが入った最新型の大型トラックを走らせ全社員に見せたい)

 

仮称Pチームのテーマは、

■物流センターの余裕スペースに水耕栽培の施設を作り、障害者の雇用を生み、新鮮野菜を当社のトラックで当社の顧客(食品スーパー、外食など)に届ける。理想的には、親御さんと利用者さんが同じ職場で働ける環境を創りたい。

 

これが社員研修のテーマか、新規事業の立ち上げプロジェクトそのものではないかと驚かれると思いますが、しかし紛れもなく社員研修ですし、チームメンバー自らが設定し、望んだ課題なのです。

日常においては、決して楽とは言えない本業があり、手抜きはできません。両方を掛け持ちしつつ、立地選定、施設の設計から業者の選定、スタッフの採用まで携わり、事業として軌道に乗せてしまったのです。

 

本人たちは「研修だから、失敗しても責任追及はされないから、楽しく取り組めた」と言っていましたが半分は強がりとしか思えません。大変なプレッシャーだったと思うのですが相談会ではいつも元気で社長や役員の手厳しい指摘にヒントを得ながら少しの歩みを止めることはありませんでした。

財務の知識がある訳でもないのに最終報告書にはビジネスプランに匹敵する5年間の財務シミュレーションが添付されていました。(チームメンバー以外の上司・同僚からのフォローもあったようです)

 

 社長の言葉は「何もない所から、ここまでよくやってくれました。両チームとも合格です。」で締めくくられ、卒業認定報告会は終了しました。社長他2名の役員が退出した後も会議室にメンバーは残り、自分たちのやり遂げたことをまるで他人が起こした奇跡のように振り返っていました。

 メンバーの一人が「俺、社長の言葉に胸が熱くなったよ。滅多に褒めない人だから。」というと他のメンバーも「そうだ、そうだ」と頷いていました。

 

 人を最も成長させるのは、やはり経験、よく練られた経験学習だと改めて実感しました。自分たちが決めて、自分たちで実行する。過酷であればあるほど達成感は大きく、別人のように成長する。

 しかし、達成できたのは職場の協力があってこそ、自分たちのテーマを自分事のように「楽しみにしているよ。すごいことやってるね。手伝えることがあったら何でも言って。」と声を掛けてれくれる社内環境。

 企業内大学を受け入れる良き組織風土醸成のための創意工夫に注力した人財開発担当者の黒子的活躍。

 

 私は自主管理経営の一環としての企業内大学(コーポレートユニバーシティ「CU」)は大企業よりも中小企業の方が良いものになると改めて確信しました。