見過ごしている、ケタ違いの成長軌道のポイント

平凡な会社をケタ違いの成長軌道に乗せる経営で重要ポイント以下2点について考え方、エッセンスとそれを見出した出来事ともにお伝えします。

13.途中でやめた取り組み・仕組み、止まった時計

人の成長が一律ではなくバラつきがあるように、企業の成長にもその企業毎に必要な時間があります。

「うちの会社がここまでになれたのには、これだけの時間が必要だった」とケタ違いの成長を遂げた経営者は、同じ意味合いの言葉でこれまでの成長軌跡を振り返ります。


一つの成長の壁を克服すると次の目標に対しても壁の高さと厚みを感じつつおよその時間の見込みが立つので、また新しいことに挑戦できます。それがケタ違いの成長軌道になるのだと思います。

例えばAの案件では1年かかった、Bの課題では3年かかったから、今度のXのテーマは5年もあれば何とかなるだろうという感じです。曖昧なイメージなのですが途中で諦めることなくやり遂げることが出来るのでないか、という「社長の勘」です。

全く新しい案件・テーマであっても、今までやり遂げた案件・テーマと比較して、どれだけの時間があればできると思える、と同時にそれだけの時間を掛けてでもやり遂げると決意して、これから起こるであろう難題・難問の連続を覚悟する。「社長の勘」には決意と覚悟の裏づけがあります。

 

地方都市の郊外にあるK社の社長の話をそのまま紹介します。

■高校を卒業した後3年間、県外の会社で働いていたが町工場を経営している父親から「体調が悪くなった、家に戻ってくれ」と連絡が来た。仕事は合っていたので辞めたくはなかったけれど仕方なく家に戻った。この場合の家に戻ることは同時に町工場を継ぐことと同じ意味。

20人足らずの町工場で社員は皆年上、作業服を真っ黒にして働く工員・職人たちだった。中堅企業の下請け・大手の孫請、安い手間賃で無理難題を押し付けられていた。

短納期で来る注文をとりあえず製造ラインに流してにする。その後仕様を充たすように手直しして製品にする。間に合わない時は徹夜や休日出勤で対応。人海戦術、その中心に自分がいて3日連続の徹夜をしたこともある。

数年で父親が亡くなって20代半ばで社長になった。父親は自分に経営のことは何も教えずに亡くなってしまった。

K社を20代半ばで継いだMさんは「こんなことやってられない」と思い会社を変えたいと思ったそうです。「もっと儲かる仕事がしたい。相手先の言いなりにはなりたくない。プライドが持てる仕事がしたい、会社のレベルを上げたい。」と。しかし、やり方が分からないので取引先の中堅企業がやっていることの資料をもらって真似したそうです。

「とりあえずやってみて、上手くいかなかったら変える。とにかく色々試してみて、上手くいったものがあったら、それを横展開すればいい」と経営の本に書いてあったから、あれもやり・これもやったけれど成果らしい成果はひとつも出なかった。その間に設備も人も年をとっただけだったと言います。

■K社Mさんは、いつの頃からは思い出せないけれど考え方を変えたそうです。「あれもこれもではなくて、色々試すのでも、上手く行かなかったら変えてみるのでもなくて」とりあえず、どれかひとつを徹底してやってみる広げるのではなく深めるこれでもかとやり遂げる。うちの社員は昭和生まれの工員・職人だから器用ではない、だけど愚直で粘り強いから一つの事ならできる、と。

■K社Mさんは現在50代、社員数は120人のR&D部門を持つ、精密部品加工会社の社長です。

会社を成長させたくて何かを始める。自分が思う時間で成果を見込む。自分ならこれ位の時間で出来るだろうと勝手に期待する。しかし、実際は上手く行かない、成果も出ない。社員を責める気持ちになる。社員のレベルが低いから無理なのだと諦めの気持ちも出てくる。そして、始めた「仕組み・取り組み」をやめて、別のことを始める。別の取り組みも、また勝手に期待して成果が思うようにでないことを社員のせいにして、またやめる。

止まるのは「取り組み・仕組み」だけでなく、会社の成長と社員の成長という時計が止まる。一度止まった時計を動かすのは大変で「また社長が新しいことを持ってきた。そのうちに俺たちのせいにしてやめるよ。」と時計が錆びつく

■新しいことに取り組むときは、何を目的とするかを社長が自身に問いかけ内なる声に耳を傾ける。「どうしたいのか、何がしたいのか」それをハッキリさせて、社員・会社がそれをできるまでの時間を掛ける、待つ。ただ待つのではなく自分も中に入って取り組む。

一度止まった時計が動き出す。それから何カ月、何年、十何年、動き続けた社員・会社の成長という時計。そうなるまでの時間を掛けたら、ちゃんとそうなった。

「結局、成長しない社員、成長しない会社には成長しない社長がいるってことなんですよ。すぐに時計を止めて、カチッとゼロに戻してしまうのは私だったのです。」

今は「うちの社員・会社なら、諦めないでやり遂げるのではないかという、訳の分からない自信みたいなのがあって、新しいことに取り組める」。そう思えるまでに成長するのに自分にも時間が必要だったのですね、とMさんは苦笑いです。

 

人も会社も成長するまでに、それぞれ固有の時間が必要なのです。しかも時間の経過は見えても成長の度合いは見えにくいです。そうかと言って成長していないのではなく、ただ見えにくい微差・僅差なのです。 

目に見えないシーソーがほんの数グラムでパタンと上下が入れ変わるように、もう少しなのかもしれないのです。

待つ、力を緩めずに積極的に待つことは、いくらでも人が採れる大企業と違って、今の社員の定着と成長が重要な中小企業経営にはとても大事なことではないでしょうか。