見過ごしている、ケタ違いの成長軌道のポイント

平凡な会社をケタ違いの成長軌道に乗せる経営で重要ポイント以下2点について考え方、エッセンスとそれを見出した出来事ともにお伝えします。

10.バリ取り、営業事務 仕事の本質と次元

中小企業では部署・組織の名称を、営業課・部、製造課・部、総務課・部といった一般的な職種名で表現する会社がほとんどです。その表現が仕事のあり方や担当する社員の能力発揮を知らず知らずのうちに制限していることに社長はお気づきでしょうか。表現ひとつが仕事の本質を示し、目的の次元を変え、担当する社員の意識と行動を激変させていく、そのことを実例を通じてお伝えしたいと思います。


製造業の現場で出来上がった製品に発生する出っ張りやひっかかり、トゲのような箇所をバリと言います。機械加工や成型工程の部品上の残留物と、JISでは定義されています。

古い話ですが私が小学生の頃、校舎は木造でしたから教室の床も廊下も板張りでした。掃除の際、雑巾がけをすると板のささくれの「トゲ」が雑巾を突き抜けて指に刺さりました。黒く残った「トゲ」は簡単には抜けません。家に帰って母親に針でとってもらうのですが目に涙が滲む程痛かったです。

話がそれてしまいましたが、部品のバリも取り扱う人の指を傷つけ、製品に残っていれば大きなクレームになってしまいます。

 

NCで精密部品を加工しているK社にも「バリ取り」の作業チームがあります。責任者は30代で髪の長い美男子です。テレビにでてくるホストクラブ経営者のローランドに似ているので私は勝手にその青年をローランドと呼んでいます。

ローランドに「どんな仕事をしているのですか」と聞くと伏し目がちに「バリ取りです」と答えます。具体的に何をするのかと突っ込むと「部品に残ったひっかかりをやすりで削って取るんです」と説明します。

「それって簡単なのですか」と聞くと「部品の材質によってバリの硬さも形も違います。使うやすりも何種類もあって、合ったものを選ぶには知識と経験が必要です」。さらに「バリを取り切れなかったり、バリを取るとき部品に傷をつけたらクレームになります」と自信なさげにボソボソと答えます。

「それは大変な仕事じゃないですか」と私が驚くと「お客の仕様を満たすためにバリをとって仕上げるんです」と顔を上げました。「そしたら、バリ取りじゃなくて最終的な仕上げですね」と言葉を言い変えたら、ローランドの目がかすかに光ったのです。

その時から「バリ取り」というチームは「仕上げ工程」に変わりました。一般的な製造業であれば普通に使われている言葉ですがK社では使われていなかったのです。

「バリ取り」が「仕上げ工程」に表現が変わっただけですが、言葉は魔法です。ローランドの意識も行動も変わっていったのです。作成途中だった「バリ取り」の2段階しかなかったスキルアップ表は4段階の「仕上げ工程」となり、中身の充実には目を見張るものがありました。

単にバリを取るだけではなく、仕上げという納品前の関所の機能を担うわけですから、習得すべき技術、知識、経験の幅も深みも増していきます。見える風景も目指すべき目標も別物になり、担当者は別人になっていくのです。

 

同様のことが健康食品会社の営業所の「事務」職でもありました。営業所の事務仕事全般を担当する女性は社内で「事務さん」と呼ばれていました。ところが業務マニュアル策定会議の意見交換の場で自分たちの仕事の目的・意義は、営業マンの営業成績が上がるように応援し、支援することだという考えに至ったのです。

営業事務から営業支援に変わった表現・言葉は担当者の女性の意識と行動を劇的に変えていきました。ただ入力していた顧客別の売り上げデータを加工して、顧客別・商品別・月別推移表を作り営業マンにフィードバックするようになりました。また、売掛金を顧客別・滞留期間別・営業担当者別に一覧にして回覧しました。そこには「回収するまでが営業」とキャッチコピーまで書かれていました。もはや事務ではなくマネジメント領域です。

 

たかが言葉、表現ではありますが、一方で「自分たちの仕事の本質は何か」を指し示し、自分の行動・行為の影響が波紋のように広がる様を想像させることにもなるのです。

自分の工程から次工程へ、他部署へ、そしてお客様へ、さらにお客様のお客様の所まで影響が及ぶ。自分の行為・行動は多くの人を経由し、形を変え、意味・意義を増幅しながら世の中の役に立っていく。自分以降の波紋の始まりが自分だということの自覚が促されるのです。

 

表現一つで仕事の次元が変わり、担当する社員の意識と行動も変わる。社員の意識と行動が変われば競争力も儲けも違ってきます。もちろん言行一致が前提ですから、社長との本気の対話が必要です。

自社の社員にどんな次元で何を目的に、どんなやりがいや意味を求めて仕事をして欲しいのか、社長の想い、経営理念とともに部署名や業務の定義に込めるのです。

社員も一緒に考えくれて、仕事をもっと「好き」になると思います。