見過ごしている、ケタ違いの成長軌道のポイント

平凡な会社をケタ違いの成長軌道に乗せる経営で重要ポイント以下2点について考え方、エッセンスとそれを見出した出来事ともにお伝えします。

9.良い人財が集まり、定着し、会社の競争力も強くなる「会社の学校化」

御社に入って5年10年の経験を積んだ若手社員は、もし本人が望めば、どこの会社にも好条件で採用される能力を持っていますか。


広く社会の労働市場で雇用される能力を「エンプロイアビリティ」といいます。色々な企業から「欲しい人財」として好条件のオファーを得られる能力です。

勤務年数に伴いエンプロイアビリティが向上する場合と、その逆もありますが、サラリーマン時代の私は明らかに後者です。

勤務年数の経過とともに、労働市場の商品価値は低下し、自覚症状がないまま選べる会社が極端に減っていきました。恐らく「専門性と言えるほどのモノはなく、つぶしがきかない」とでも判断されたのでしょう。もはや諦めて今の会社に残るしかありません。

その時の私は、仕事がつまらなくなっていましたし、幼い娘・息子と妻との「今の会社での10年先の自分の未来」が描けなくなっていました。覚悟を決めて履歴書を数十社に出しましたが一社も面接の機会さえ与えてくれません。私の7年間の経験は何だったのかと絶望しました。大袈裟で甘えた考えですが、当時の私は会社に居ながらにして路頭に迷っていたのです。

 

ところで私たちの小学校から高校の12年間、大学での4年を加えた16年間はどうだったのでしょう。日本の古い言葉も外国語も、経済や歴史のこと、苦手なことも得意なことも幅広く勉強しました。何百冊も本を読みました。

通知表の点数、すなわち自分の成果・成績に一喜一憂し、運動、美術、音楽もそれなりに頑張っていました。出来栄えはともかく、手抜きはしていなかったと思います。

部活では監督や先輩にしごかれながらも、自分ひとりではできない量の練習をこなし、高い所を目指しました。そして、勝敗に泣いたり、喜びを分かち合ったりしました。(私は帰宅部で経験はありません。友人を見ていて思いました。)

人としての「成長期」であったとしても、何度となく壁を超え、誰もが1年で大きく成長しました。命までは取られませんが「受験戦争」という戦争に巻き込まれ、忍耐や葛藤、競争の厳しさを経験しました。

会社に入り1日8時間、与えられた仕事をして様々な経験を積んで行きます。一年働けば一年分成長するはずです。学歴とは違う職歴がものをいう転職市場では「あなたはうちの会社にどれだけのものを持ってきてくれますか」を問われます。どれだけのものを働いた年数だけ蓄積しているはずです。

ところが中小企業の多くの社員(私の知っている範囲)が「社会人は勉強しなくて良い、本を読まなくて良い」と思っていますし、仕事はこなせば良く、探求しなくて良いとも思っています。

 「成長期」は既に終了し、「成熟期」「衰退期」の境地です。

もちろん自己啓発・自己成長意欲の高い社員も存在します。自分なりに勉強して資格を取ったり、実務の専門的な研究をする人もいます。通信教育で大卒の資格を取った人や、休日を利用して大学院やビジネススクールに通っている人もいます。

但し、目的は「今の会社より、良い会社に行くため」「もっと自分を成長させてくれる会社に行くため」「将来の夢が持てる会社に入りたいから」です。

どうして「今の会社で活躍したいから、貢献したいから、自分を成長させたいから」にはならないのでしょうか。

極少数の例外的なタイプの人を除けば、小学校や中学校、高校の卒業文集になりたい自分を描いていたはずです。その対象は仕事であり職業です。皆、仕事に夢と希望を持っていたのです。頑張って成長する自分を描いていたのです。

それなのに「会社に入ったら、本を読まなくていい、勉強しなくていい」さらには「出世したくない、食べていければいい」という価値観を持つようになります。

一方で今の会社に夢や希望を無くして「青い鳥」を探しに行く。情報誌の溢れる情報に乗せられてしまうのです。それはどこで、いつからなのでしょうか。そして、なぜなのでしょうか。

自己啓発も自己成長も転職志向も「本人の問題・本人の意識次第」であって、まして中小企業がどうこうできる話ではないという考え方もありますが、私は自己啓発も自己成長も「本人の問題・本人の意識次第」ではなく、会社の問題、社長の課題だと思うのです。

 

岐阜県にある日本一の改善工場T社は、社員数37人の中小企業でありながら、社員はもとよりパートさんもビジネス書を読み、5SやTQCを学び、改善提案を山のように出しています。 

通勤での車の中で社長から借りた会社経営のCDを面白い、為になると言って聴いています。この会社の社員にとって会社は学びの場であって、定年になるまで勉強し続ける学校なのです。

勉強といっても会社経営に関わる事ですから、時間差はあっても「儲け」に繋がっています。コストダウン、生産性向上、新製品開発、新規市場の開拓の土台になっているのです。事実T社の商品は大変ユニークで競争力があり、高い利益率を誇っています。

 

ワークプレイスラーニングという言葉があります。「職場は学習の場」であるという意味です。

●機械の操作一つをとっても、機械のメカニズムの理解には力学の基礎が役に立ちますし、加工対象の原材料は、素材特性を学ぶことで品質向上の手立てに活かせます。

●営業も御用聞きではなく、購買心理や販売促進の知識が役立ち、プレゼンテーションスキルは提案営業の成功確率を高めてくれます。

 

 今の会社で成長する自分や家族との人生が描けたら、あえて外に目を向けることはしません。

働きながらエンプロイアビリティが向上して、転職エージェントの甘い誘いがあっても、今の会社の方がいいと思えるのです。

「本を読まなくていい、勉強しなくていい、頑張らなくていい」という価値観を持ったまま、20代から50代まで勉強や研究に無縁の期間を送ったらどうでしょう。身についた「学ばない習慣」は70歳まで働くための「学び直し」は無力です。残念なことに年齢と経験を重ねながらエンプロイアビリティは低下の一途をたどります。

学び続ける人は考えることの持久力があり、新しいことにも挑戦的で、知識の吸収力も衰えません。何よりものの見方、受け止め方が素直です。それが実務経験と相まって会社の未来戦略に貢献します。

●自己啓発・自己成長意欲の高い人財が外に目を向ける前に、

●「本を読まなくていい、勉強しなくていい、頑張らなくていい」という「学ばない習慣」を打破するために社員教育・人財育成に力を入れるべき時です。

学びとか勉強といっても学校教育とは異なる実践向けの実務教育が対象です。目先の事業から一歩か二歩離れて、先を行ったところから俯瞰します。学びの領域は広く、深く、そして自社の未来に向かっています。

できれば外部に頼らず、社内に自社の事業をベースとした学校(企業内大学・企業内経営塾)を作るのです。教室は会議室、時々現場。講師は社内調達・育成。学長は社長、教育指針は経営理念と経営ビジョン。教材は経営計画、マニュアル(ISOも含む)、技術関連の図面や企画の資料。研究課題は新技術・新製品や新規事業分野。

エンプロイアビリティが向上し会社の選択肢が増えたとしても、社員は他社よりも成長できる自社を選びます。人が成長できる会社に人は定着し外からも集まってきます。自己成長意欲が高く、研究熱心、チャレンジ精神旺盛な社員の集団は最強です。

それを個人依存せず、外部に委託せず試行錯誤しながら内製するのです。