「成長軌道構築支援」という当社のコンサルティングプログラムがあります。社員が仕事と会社を「好き」になる仕組みと、会社と社員個々人の「強み」を創る仕組みとが相互に作用しながら、ケタ違いの成長軌道を目指すものです。
そのプログラムの課題の一つに「キャリアドック」があります。会社に入って自分が成長したと思えること、成長できた理由と影響要因、促進要因・きっかけを思い出していただき、文章にしてみんなの前で発表します。
みんなに発表することが前提となっているのでマイナス思考の恨み節は特に指示しなくても自分から避けて書いてくれます。
先日、西日本の会社でキャリアドックを行ったのですが大変感動的だったので、印象に残った2人の方の発表の一部を抜粋します。
■営業職のOさん。お客様に納入した製品で契約不適合を発生させ、先方から数百万円の遅延金を請求された。人事異動したばかり、前任者からの詳しい引継ぎもなく担当した仕事だったので最初は何が何だか分からなかった。
会社に戻り上司の部長に報告したら大激怒され「不当なお金を支払うことは出来ない」と強く申し入れてくるようにと指示を受けた。
どうして良いか分からないので顧問弁護士に相談したけれど今後のことを考えて無難に対応した方が得策との当り障りのない助言しかもらえず、契約書を何度も読み返しても糸口は見えなかった。お客様にも言えないし、会社に行くのも嫌になった。
最後は腹をくくって先方に丁寧に遅延金をお支払い出来ない旨を説明し、先方からの会社間の関係性にひびが入るなどの言葉に屈することなく奇跡的に切り抜けた。
後になって当時の部長が私の成長のために、あえて無理難題を押し付け、考えさせるように仕向けたと聴き「仮にそうだとしても、やり方ってもんがある」と今でも納得はできていない。
しかしその経験からか、部下の失敗に対して、何が分からなくて失敗するのか理解・想像できるようになったから、何を教えてあげれば良いのかが分かる。任せる許容範囲も分かるし、上手く行ったら素直に褒めてあげられるようにもなった。部下の成長=自分の成長=会社の成長だと本心で思える。
■現場職のMさん。お客様に設置した製品が内部短絡事故を起こしお客様から原因と事故に至るまでのメカニズム、応急対策・恒久対策について早急に報告するようにと強い指導を受けた。
自分もそのメンバーの一員として、主にメカニズム解明の実証実験を担当した。通常業務と並行して対応した。報告期限が迫ってくるなかでメカニズムの解明は想定通りに進まず、体力的・精神的に限界となり、とうとう会社に行けなくなって半年間休職した。
完全に復職するまでに1年かかったが信頼できる上司や職場の同僚の存在が大きく影響した。「1人でできることには限界がある。信頼できる職場の上司や同僚、友人など、身近な人の配慮や協力があったから今の自分がある」この気づきが自分の大きな転換点となった。
職場の同僚に対する接し方や職場風土の向上に向けて努力すること、周囲を巻き込み、同じ方向に進んでいこうと努力することが実践できるようになった。
OさんとMさんの発表は以上ですが、他のメンバーは2人の話を下を向きながら静かに聞いていました。多少の事情を知っているらしく、特に感想も質問も出ませんでしたが、他人事ではなく自分事として受け止めていました。仲間の経験談に耳を傾け、感情移入し、疑似体験として自分の成長の糧にする。そういう文化がこの会社の中で培われているのだと感じました。
今回お二人の話を紹介させていただきましたが、特別なことではなく、仕事をしていれば誰でも似たような経験をすると思います。金額や責任の重さの違いはあっても、夜眠れないほどの、会社に行けなくなるほどの思いを味わうことがあります。パート社員、派遣社員、正社員も管理職・役員もそれぞれ、その人にとって抱えきれない出来事は起こるものです。
誰もがそうとは限りませんが、振り返る時間を作って皆で聴いてあげることで、重苦しい記憶が自分にとって重要な意味を持つことに気が付くことがあります。
人に言いたくない暗くて苦い失敗体験が、明るい成功体験に塗り替わり、一度塗り替わった記憶はその後一生ものになる、そう言うことも大いにあると思うのです。
傷のままか、一生ものにするかは職場環境、組織風土という目に見えにくいものに大きな影響を受けます。それは、こうしたらこうなるといった簡単なことではないのですが、社長が意図して、意識して創ろうしないと創れないものだと思います。