人(社員)は「経路依存性」の影響を受け、考え方・行動がコチンコチンに固まる。早期に仕事で「一皮むける経験」を踏ませてひびを入れた方が良い。
■管理職の成長を阻む「経路依存性」
中小企業の管理職は現場実務で社内No.1の実力者が多い。その実力が認められてプレイヤーからマネジャーへと昇進するが、本人は現場実務No.1であり続けることにこだわる。自らプレイングマネジャーを選び、それが自分の存在価値であり、将来に向けての安心できる居場所だと考える。
はじめはそれでも良い。しかし、時間の経過と共に社長の評価は変わる。「うちの管理職は管理職の仕事をしない」と厳しい目を向けるようになる。
◕新しいことにチャレンジしたがらない
◕人が育てられない
◕自分のノウハウを形にできない
◕使い勝手の良い部下を手放そうとしない
◕戦略的な発想が持てない
◕ジョブローテーション・配置転換の邪魔をする
やがて、存在価値に陰りがさし、安全な居場所も危うくなる。上司・先輩のそんな姿を見て自分に置き換え、若手は自社の未来に希望を持たなくなる。
これは管理職本人の自覚や危機感がないことによるものだが、それだけでなく「経路依存性」というものが大きく関わっているようである。
「経路依存性」とは、本人が未来に向けてどんな経験をしていくかを決定づける影響要因で、過去に身につけた知識やスキル、経験を生かせる事を無意識に選択し、それ以外のことは回避する行動特性で「経験の循環」を形成することをいう。
会社は早く一人前になって欲しいから配置転換しないでずっと同じ仕事をさせ続ける。中途採用では「経験者優遇」にするから会社と社長が「経路依存性」を作っているともいえる。
社内でNC旋盤の加工技術No.1の工場長、社長以上に顧客に人脈を持つ営業部長、社内の誰よりも介護技術を持ち、介護保険の仕組みにも詳しい施設長。実力者たちは入社以来何十年も同じ仕事をし続けて「経験の循環」で実績を積み上げ、会社の業績を支えつつも、考え方や行動がコチンコチンに固まり、時として会社の成長を阻む壁になる。
■経路依存性の打破、一皮むける経験を意図して創る
管理職の仕事をしない管理職を出さないためにどうするか、その方法の一つとして「一皮むける経験」という考え方を参考にしたい。人(社員)がそれまでよりも飛躍的に成長し「あいつ一皮むけたなぁ」と周囲から評価されるようになる、仕事人生での分岐点のような経験を指す。具体的にはどんな経験か、研究者によって主旨・表現は異なるが大枠としての意味は重なっている。
◕管理職として成長した経験 (日米で実施されたビジネスマン対象のアンケート・ヒアリング結果による)
❶変革に参加した経験 ❷部門を超えた連携の経験 ❸部下の育成経験
◕発達的挑戦(成人発達論)
❶不慣れな仕事 ❷変化の創出 ❸高いレベルの責任 ❹越境
◕具体策:一言でいえば、なるべく早期に、なるべく若いうちに、仕事で「一皮むける経験」を踏ませることである。
業務に大幅な支障をきたさない範囲からでよく、現在の日常業務の中に課題として一皮むける経験の要素(例えば変革と越境と部下の育成)を組み込んだテーマを設定して取り組んでもらう。短期的な成果を求めたりせず長期スパンで妥協しないで取り組ませる。社長はそれを忍耐強く後押し、今まで避けてきた分野の仕事を経験循環に組み入れてしまうのが有効だと考える。
「早く一人前に」、「経験者優遇」、「生産性が落ちるから配置転換できない」、こうしたショートスパンの効率優先経営は、長期スパンで見ると著しく非効率で、リスクのある経営だと思うのである。