最近、オーディブルという本の朗読アプリを活用しています。
移動時間が5時間に及ぶこともある私にとって、「読む時間」を確保するのは簡単ではありません。仕事へ向かう前は一日の段取りや想定で頭がいっぱいですし、仕事帰りはようやく緊張が解けるひとときです。そんな状態で文字を追い、集中して読むのは気持ちの上でもなかなか大変です。
けれども、耳で聴けるのであれば話は別です。プレイボタンを押すだけで物語が始まります。目を使わずに済み、移動時間が自然と読書の時間へと変わります。
先日、新幹線の中で喜多川泰著『いただきます。人生が変わる「守衛室の師匠」の教え』を聴きました。
物語の中で、平凡な青年が守衛の先輩にこう愚痴をこぼします。「自分には特別な才能がない。誰でもできることしかできない」
それに対し先輩はこう語ります。「誰でもできる仕事ほど、誰がやるかで差が出る。誰でもできることを、誰もできないレベルまでやれば、それは“誰もできないこと”と同じだ」
正確な言い回しではないかもしれませんが、その趣旨はこのようなものでした。私はこの言葉に強く心を打たれました。(本が手元にないので確認できないのです。)
青年の言う「誰もできないこと」を企業経営に置き換えれば、それは競争優位であり「強み」です。
中小企業の経営者から、「うちは特別な強みがない。平凡な会社です」という言葉を聞くことがあります。しかし、この小説の言葉は視点を変えてくれます。
「どこの会社でもできること」こそ、「どの会社がやるか」で差がつく。
挨拶、整理整頓、納期厳守、顧客対応、報連相、改善活動。どれも特別なことではありません。どの会社でも取り組めます。
私がご支援している仕組みも同じです。特別なものではありません。取り入れること自体は可能です。しかし、それを徹底し、継続し、成果が出る水準までやり切ることは容易ではありません。
そして、その差がやがて大きな差になります。「誰でもできること」が「誰も真似できないこと」に変わる瞬間です。それこそが差別化であり、本当の意味での強みなのだと思います。
私が関わらせていただいている企業の中には、着実に成長を続けている会社がいくつもあります。外部の方から、「羽鳥先生のコンサル先ですよね。あの会社の強さは何ですか?」と聞かれることがあります。
私はいつも、「正直に言うと、私にもはっきりとは分からないのです」とお答えします。すると、「守秘義務ですものね。立場上、言えませんよね」と返されます。
けれども、本当に分からないのです。
もちろん、私が支援している仕組みが一つのきっかけになっていることはあると思います。しかし、それだけでは説明がつきません。
理論や仕組みは真似できます。しかし、それをやり切る姿勢までは真似できません。違いはそこにあるのだと、あの小説を聴きながら腑に落ちました。
今回の気づきは経営書から得たものではなく、小説から得たものです。
忙しい経営者にとって、「勉強のための時間」を確保するのは簡単ではありません。けれども、移動時間に聴く。小説から学ぶ。受け身の時間から気づきを得る。そうした工夫が、経営の視野を広げてくれることがあります。
特別なことを探さなくてもいい。「誰でもできること」を、「誰もできないレベル」までやる。その積み重ねが、企業の本当の強みになる。
今回の読書体験は、そんなシンプルで本質的な経営の視点を改めて教えてくれました。忙しい経営者の皆さまにも、経営書以外の一冊を“聴いてみる”ことをお勧めしたいと思います。