見過ごしている、ケタ違いの成長軌道のポイント

平凡な会社をケタ違いの成長軌道に乗せる経営で重要ポイント以下2点について考え方、エッセンスとそれを見出した出来事ともにお伝えします。

18.「社長、私は何をリスキリングすればいいのですか⁉」

リスキリング、すなわち「学び直し」のことで横文字にすると別物の様に聞こえるが、意味は同じである。大企業を中心にあの手この手の手法が導入されているが、中小企業、特に管理職のリスキリングは少しも実行に移されていないようだ。


・中小企業の管理職は現場実務の能力が優れていて、他の社員よりも実績をあげ、結果を出すから抜擢される。

・彼も勤続●●年、本人から待遇面の不満が出ないうちに管理職にしてやろう。

・管理職手当を払っても残業代との差はほとんどないから問題ない。

そんな経営的判断も未だに根強く存在する。

 

社長室に呼ばれて管理職だと言い渡された翌日から名刺の肩書と組織図の位置が変わるが、仕事内容はほとんど変わらない。管理職になったらどんな仕事をするのか説明もない。

そもそも昇進を決めた社長でさえ、管理職の仕事とは何かを明確には説明できない。部下を管理し育てることだと一般論は言えるが、自社の中でどうして欲しいのかを具体的には言えない。

部下の管理ばかりに時間を取られ、或いは教育ばかりに時間を取られて営業成績が落ちたり、生産性が下がったら困るので曖昧なまま「じゃあ、頑張ってくれ」で面談は終わる。

 

従業員数が100人を若干超えた製造業の話である。工場長と営業部長ともに50代後半、高校卒業後40年間この会社に勤めている。管理職ではあるがプレイヤー80%マネジャー20%のプレイングマネジャーである。

工場長は設備についてはオペレーションから保全まで完璧、形状が難しく品質の要求水準が高い開発品・試作品は工場長にしかできない熟練技術が必須である。営業部長は顧客の内部情報に詳しく、顧客なのに友人のようにお酒を酌み交わせる人脈も多い。

社内でダントツNo.1の二人のリスキリングをどうすればいいのか。人事の役割も兼ねている総務部が頭を悩ます。色々調べて社長命令で公共の中小企業の研修機関や金融機関のマネジメント講座に出してみた。結果は想像以上にがっかりさせられるものだった。

「うちには合わない。もっと大きい会社の話だ」とか、「ワークショップとか言って、知らない人たちと意見交換しろと言われても無理だよ」。

評論家に姿を変えて帰ってきた二人は、お金と時間の無駄だ、あんなことに何の意味があるのかと散々愚痴を言って、社内規定の研修報告書も出さないし知り合い一人作ってこない。

それなら、管理職の動機付けの本、部下育成の本、組織の動かし方の本など読んだらどうかと提案したところ「学校を出てから本は一冊も読んでない。今更勉強なんて無理、本など読まなくても特に困ったことはない」と胸を張られるので手が付けられない。ハイパフォーマーなのでリスキリングしなければ「降格」だとも言えず総務も社長も頭を抱えた。

結局発想を変えることにした。インプットだけがリスキリングではない。要は本人が今より成長すればいいのだからアウトプットでもいいはずだと。

何をやったのかというとその会社の頭文字を取って、You-tubeならぬK-tubeの作成である。

工場長には複雑な形状の製品加工の実演をお願した。撮影機器の操作は若手社員が引き受けてくれ、他にも数人の若手が動画作りに参加した。

設備を操作し製品を加工する工場長に質問する。「今、どう操作したんですか、何が狙いなんですか、図面のどこからそう判断したのですか」という具合です。しかも撮影は加工段階だけではなく、前段取から、後始末までとぬかりがない。

営業部長も同様。厄介なお客様を想定した資料作りから、アポ取り、先方の会社に到着してから商談、そして帰りの挨拶までの注意事項を説明した後、商談の一部始終をロープレし、動画に撮影した。トップ営業の部長と言えども30分の動画を撮るのに2時間以上もかかり、大汗をかいた。

こうしたベテラン管理職向けのアウトプット主体のリスキリングは4カ月経過した現在も継続していて、K-tubeは新入社員教育や部門内勉強会の教材として活用されている。貸し出しも可能で、早く一人前になりたい社員の自習にも使われている。

ベテランのプレイングマネジャーは資料の準備、動画のシナリオ作り、撮影中の若手とのQ&Aまでに相当な時間を費やし「忙しいのにやってられない」と不平を言いつつも自分のノウハウが形になり、それを若手が活用してくれている姿に達成感と喜びを感じ、周囲から僅かだけど「変わった」すなわち成長したとの評価を受けている。

リスキリングも色々な方法があるのだと再認識した。