見過ごしている、ケタ違いの成長軌道のポイント

平凡な会社をケタ違いの成長軌道に乗せる経営で重要ポイント以下2点について考え方、エッセンスとそれを見出した出来事ともにお伝えします。

6.社長と社員の「文書対話」のすすめ

業績の良い中小企業には「社長が社員一人一人のことを良く知っているし、社長が社員の話を良く聴く」という共通点がある。


どれくらい知っているかというと、長所・短所、履歴書に載っていないような様々な経験、スポーツや部活の実績、こだわりや苦手な事、両親や恩師のこと、そして現在の関心事、苦戦していることやその理由、そしてその気にさせるキーワードまで。もちろん、勤怠や給与・賞与の推移にも目を通しています。

ある会社、社員数70人ほどの製造業の最近の話です。
不器用な性格、口下手ですが、愚直な程に仕事に取り組み、「いい仕事」をする社員をチームリーダーにしようと管理職会議で決定しました。直属の係長は本人が喜ぶだろうとニコニコしながら昇進の話をしましたが係長の期待は本人の「イヤだ」の一言で粉々に粉砕されてしまいました。

係長は課長に相談しました。「俺から話してみるよ」と係長から課長にバトンは渡されましたが、そのバトンは部長に渡され、最終的に社長に渡されました。社長は「あいつは少し変わっているから・・・折を見て俺から話してみるよ」と引き受けました。
数日後、管理職会議で「あいつリーダーやるって」と雑談のついでのようにさらっと社長が言いました。係長も課長も部長もあ然として「社長、なんと言ったんですか」と聞いたところ、社長は「良く分かんないけどさ〜ただ、お前の技術の凄いところをリーダーになって皆に見せてやれ」と言っただけだ、と言うのです。
社長ご自身さほど意図した訳ではありませんが、その社員のやる気の急所にさりげない一撃を打ちこんだのに違いありません。

この会社は社員数40人を超えたあたりから、実績や成果が「分かり易い小さな単位組織」で月次で業績報告書を作成し、管理職会議で報告する仕組みを導入しました。
簡易的な部門損益と損益に関連性の高い業績評価指標が数値で表示され、それを所属メンバー全員が分析・評価して、次月度までの改善事項を記述します。また、自由な記述欄が設定されていてメンバーの関心事や困り事、他部署への相談事項が書かれていて、必要に応じて図や絵や表で表現されています。

文章の上手い下手よりも一生懸命に書くことで良しとされ、多少仕事の枠を超えても大目に見てもらえます。日頃顔を合せている本人とは意外な面が現れてくるからです。
月次の管理職会議での報告書として使用された後、社長の手元に原本が回ってきます。社長はその報告書をじっくりと読み、自分の言葉を書き込みます。管理職に対してではなく、それぞれを書いた本人に対して書き込みます。

通信教育の赤ペン添削のように、或いは学校の先生がテストを採点して、ハナマルに言葉を添えるように、本人限定のピンポイントで書き込みます。大変手間のかかる面倒な作業ですが社長は手抜きをせずに毎月書き込みます。その後社内回覧され、それぞれの部署に戻され、本人も目にします。
昇進・昇給を「イヤだ」の一言で拒否した社員に、社長も同じく一言でOKさせた言葉の背景にはこうした影の努力が下地になっていたのです。

これらの行為が文書対話です。文章を通じて向かい合って会話するのです。訓示でも講話でも、お説教でもありません。社長からではなく、社員の言葉をよく読む、理解することを起点として会話が始まります。
書くという行為は話すよりも何工程もの思考プロセスを経由します。
まず、考え・思う(頭の中だけ)⇒言葉にする(形になっていない)⇒文字に変換する(形になるけれど整理されていない)⇒相手に伝わる文集にする(相手を想い、どんな顔するだろうかなども想像して)

会話よりも3工程多いだけでなく、特定の相手に理解しやすいように、伝わりやすいように言葉と文字を選びます。場所も時間もその場から離れますから感情の高ぶりもなく、相手の反応も考えながら書くことができます。その文書のやり取りを他者がどう見るかも想定して工夫することもできます。

中小企業に限らず、経営者・社長は自分の考え、方針、思想、哲学を社員に相当な時間をかけて話をし、社員に聴くこと、理解すること、共感し同じ価値観を持つことを刷り込むように求めます。
ご自分のことは生い立ちから学生の頃の部活や「やんちゃな武勇伝」、創業時の志、資金繰りに苦しんだ経験など様々な話をされます。
しかし、社員の事にどこまで関心を向けているのでしょうか。ハラスメントを警戒してプライベートな話まで聴かない。社長ばかりでなく、同僚・上司・部下の関係もマンション住まいの近所付き合いに似たドライな関係になってしまいます。

文書対話の良い所は、面と向か合わないから尚の事、相手のことを想うことにあります。
感情的にもならず、照れくさくもありませんし、忘れたら何度でも読み返すことができます。
相手の言葉、相手への理解からはじまる文書対話が人間関係の下地となり実際に顔を合せて話すときは、案外お互いに言いたいことが言えて本音の話ができるものです。

会社の仕組みの中に文書対話できるものはありませんか、是非見つけ出して、文書対話を試してください。地味な行為で、社員の最初の反応はがっかりするくらい微かなものですが、いつか必ず企業文化へ、高業績へとつながること間違いなしです。