見過ごしている、ケタ違いの成長軌道のポイント

平凡な会社をケタ違いの成長軌道に乗せる経営で重要ポイント以下2点について考え方、エッセンスとそれを見出した出来事ともにお伝えします。

28.コラム再開します

2025年5月より、私の二冊目の執筆のため、しばらくコラムを休止しておりました。
コンサルティングの実務以外の時間を、ほぼすべて執筆にあてていました。あまり器用な方ではありません。

新しい本のタイトルは、まだ仮ですが『中小企業の社内大学』です。
一般的には「企業内大学」と呼ばれる取り組みです。自社の中に、社員を育てる学びの場をつくるという考え方です。私はこだわりをもって「社内大学」と呼んでいます。書籍の発刊は、3月か4月になる予定です。

大企業では、マクドナルドのハンバーガー大学や、オリエンタルランドのディズニー・ユニバーシティが有名です。実は、そうした事例を知る前に、私は自社に「CWMカレッジ」をつくり、クライアント企業にも「社内に学校をつくりましょう」と提案し、実際に開講してきました。まだ10校には届きませんが、最初の社内大学を開講したのは平成7年(1995年)です。
中小企業の社内大学としては、かなり早い取り組みだったと思います。

私の記念すべき第一校目の社内大学は、かなりの田舎にある会社でした。都内まで車で3時間もかかる場所で、社員を研修に出すのも大変です。研修に行かせても
「うちは特殊だから、研修は役に立たない」と言われ、報告書も出てきません。
それ以前に、「行っても意味がありません」と、誰も行きたがらないのです。

社長は「社員のレベルを上げなければ、この会社は生き残れない」と強い危機感を持っておられました。そこで私に相談があり、私は「それなら、社内に学校をつくりましょう」と提案しました。
社長も「面白そうだな」と賛成してくださり、社内大学が始まりました。詳しい話は本に書きましたので、ここでは省略します。

今日は、本には書かなかった話をひとつご紹介します。それは、私が役員として勤務していた会社につくった「CWMカレッジ」の話です。

当時のその会社は、会計事務所を母体とした、中小企業向けのコンサルティングファームで、社員数は30名前後を行き来していました。毎月、月初の金曜日の午後を、社員研修の時間にあてました。

CWMカレッジは、パート社員も含めた全社員参加です。そのため「パートにも研修を受けさせるのか」という声もありました。私は、正社員もパート社員も分け隔てなく、成長の機会を持ってほしいと考えていました。苦情が出るとは、正直なところ想定外でした。

それでも全員参加でCWMカレッジはスタートし、さまざまな取り組みを行いました。
その中で、今でも一番印象に残っているのが 「自分史講座」 です。

自分のこれまでを振り返り、今の自分がどのようにつくられてきたのかを書く。
すべて本当のことを書く必要はありません。書きたくないことは書かなくてもいい。
ただし、書いたものはみんなで共有する、というルールでした。

書いた自分史を、みんなの前で発表する時間も設けました。発表は手上げ制です。

ある日、真っ先に手を挙げたのは、入社して一年も経っていない中途採用の男性社員でした。普段はあまり目立たず、机が隣の社員でさえ、よく知らない存在でした。

大阪出身の彼の話は、とても素朴で、しかし強く心に残るものでした。養鶏場を営む家での日常の話。特に印象的だったのは、彼が飼ってきたペットの話です。

犬や猫が亡くなったときの落胆ぶりに、涙する社員もいました。文鳥を誤って踏んでしまった話。育てていた七面鳥が、ある日突然いなくなった話。彼は決して話が上手なわけではありません。しかし、飾らない生活の描写が、聞く人の心を強く打ちました。

その日を境に、彼の印象は大きく変わりました。彼が変わったのではありません。
私たちが、彼のことをそれまで知らなかっただけなのです。

他者の自分史を聴くということは、偉人の伝記を読むのと、本質的には同じだと思っています。その人が、どんな環境で育ち、どんな経験を通って今ここにいるのか。
それを知ることで、人は自然と相手を尊重するようになります。

自分史は、立派な成功談である必要はありません。身近な人の歴史を知ることに意味があります。それだけで、人との距離は一気に縮まります。

仕事の依頼がしやすくなる。声をかけやすくなる。言葉をそのまま受け取れるようになる。

駆け引きや忖度、余計な遠慮が減り、結果としてコミュニケーションの質とスピードは大きく向上します。自分史は、情緒的な取り組みのようでいて、実はとても実務的なのです。

私は独立したため、今はその会社には在籍していません。あの自分史を発表した彼は、定年まで勤め上げ、在籍中に身につけたノウハウを活かして独立したと聞いています。

社内大学では、講師も教材もすべて社内の人間が担います。社内にまだない知識や考え方、仕組みや手法を、誰かが外に学びに行き、それを持ち帰る。
そして、自分なりに噛み砕いて、社内で共有する。

一人が外に出て学んだことが、会社全体の財産になる。教える側も、話すことで理解が深まります。学びを自分の中に閉じ込めず、みんなで使える知恵にしていく。
中小企業にとって、これほど現実的で無理のないやり方はありません。

社内大学をきっかけに、新しい事業が生まれた会社もあります。地元のテレビや新聞に取り上げられた例もあります。しかし、最初からそんな成果を期待する必要はありません。
まずは、CWMカレッジで行った「自分史講座」から始めてみる。それだけでも、職場の空気は確実に変わります。

部署を越えて、一緒に学ぶ機会は、意識してつくらなければなかなか生まれないものですから。