中小企業のプレイング・マネージャーの管理職とプレイング・プレジデントの社長は、部下の育成に時間を掛けすぎないで、「仕組み」に任せて、現在と未来の稼ぎに注力すべきです。
ある中小製造業の社長、Aさんの話です。A社長は中堅企業の機械設計を10年経験した後独立し、創業20年で社員数70人、売上高20億の会社にまで事業を拡大しました。成長軌道は現在も継続し、傍から見ると順風満帆のように見えますが、実際は悩みは尽きない様です。
■社員の設計ミスや無駄な工数が多い。
■指示したことを指示した通りにやらないで勝手に変えてしまう。
■任された自分の範囲しか関心を持たず、後工程のフォローをしない。
■何かに付けて「報連相」がない。
■管理職は自分の仕事だけでなく、部下の育成も大事な仕事だ。
と何度も何年も言っているに、出来ない、変わらない。
私はA社長にはっきり言います。「社長、良く考えてみてください。この会社の管理職は全員がエースで4番のプレイング・マネージャーですよ。社長でさえも第一線の設計者、大きな案件のほとんどに関わっているプレイング・プレジデントじゃないですか。管理職に部下育成の時間、社長に管理職育成の時間、それが取れる余裕などないんじゃないですか」と。
時代は変わり、働く人の価値観は大きく変化しています。新種の●●世代が次々と出現し、言葉だけで、話す側と聞く側が同じことをイメージし理解することは困難になっているのです。
管理職は決してさぼっても手抜きもしていないのです。限られた時間の中で一生懸命部下を育てようとしているのです。社長ご自身も管理職が管理職らしく、さらに経営陣へと成長する様に頑張っているのではありませんか。ところがこちらが思う様には人は育たたないのが現実です。
育てる側の時間とその重みと、育てられる側の時間と重みは感覚・価値観としての差があり、さらに個々人でのバラつきがあるのです。育てる側が忙しい中、貴重な時間をあてても、相手にどこまで届きどれだけ響いたか、理解したか、納得したかは「見えません」。
目に見える行動の変化に表れるまでには、形として耳で聞く➡心を開き素直に聴く➡正しく理解する➡主旨が伝わり納得する➡腹落ちして行動に移す。「やる、できる」までにはこれほどの見えないプロセスがあるのです。
こちら側で「これほど何度も時間を掛け、教え、注意したのだから」と思っても、相手は聞き流していたり、反発していたり、重要なことだと思っていなかったりで、費やした時間と思いの歩留まりは驚くほど悪いのです。
見えない歩留まりの悪さに教える側は苛立ち、落胆し、疲弊していくのです。
しかしよくよく考えると、言葉も価値観も異なる新種の●●世代に口頭で直接的に人が人を教え、育てるのは無理があるのです。勿論いつの時代にもどんな世代にも、高い目標を持ち、素直で積極的な人材はいます。その人材はさほどの手を掛けずとも自分から成長していきます。問題は受け身姿勢、言われたことだけやる、或いはやらされ感一杯の言われたことさえしない、出来ない人材です。
教える側は期待し、教えられ側は悪気なく期待を裏切る、その繰り返しはお互いの人間関係を最悪にしていきます。職場全体にも悪影響を及ぼします。
人が人を教え、育てることは今後も重要なのですが最終的に、教えられる側が自ら求めてくるくらいまでは、仕組みに移行すべきなのです。
仕組みで、◕そうした方が良い ◕そうしない訳には行かない ◕そうせざるを得ない
◕そうした方が楽しい、ように成長の方へと仕向けるのです。
ある運送会社は、社員に身だしなみを徹底するために運行主任が毎日「大きな声を張り上げて注意した」のに徹底されませんでした。それを見かねた事務職員の女性が、ドライバーの顔を模したプレートを作り、髭が伸びていたら顔のプレートに髭とドライバーの名前を書いて、点呼する場所のホワイトボートに張りました。髪の毛がぼさぼさな人、ユニホームが汚れている人、靴が傷んでいる人、それぞれを強調した絵で表現し、日々事務所内で目立つように掲示しました。さらに名前別に指摘され、プレートを貼られた件数を「正」の字でカウントして、これも表示しました。ソフトな「張り付け獄門の荊」という仕組みです。
ある製造業では大手企業から早期退職で入社してきた品管課長の考案で、NCマシンの技術レベルを絵にしたスキルマップを作りました。~ができると言う表現で人別に技術レベルが一目瞭然に見える表です。どんな仕事を誰に任せるか、誰に何を重点的に指導するかの参考にし、活用したところ成果が出ました。一定の成果が出ましたがさらに強化・徹底するために社内に「NCスクール」なる学校を創りました。
誰もが経験している自動車教習所の仕組みを模して、技術項目ごとに実技講座を作り、上位レベルの人が教え、一定の水準を習得すると受講ノートに「見極め」が貰えます。さらに「見極め」が一通り満たされると「実技検定」が行われ、合格すると技術認定書が貰えて、社内の廊下に検定結果が掲示されます。
ある飲食業は「5分間で売上いくら分の調理ができるか」で胸に付ける星の数が違います。店長が部下に調理指導をして、大丈夫と思えた時に他の店長にも集まってもらって、調理検定をおこないます。店長数人に囲まれ、ストップウォッチで時間を計られながら、汗びっしょりなって調理して、味を確認された後、複数の店長の合議で合否が決定します。合格した時の喜びようは傍で見ていても感動します。それは店長の評価として本社に掲示され、社内報にも記事になります。
人を育てる、教えるを口頭ではなく仕組みに移行した事例を紹介しました。お分かりのように全てが仕組みで自動的に行われるのではなく、「人」が関わっていますが、人が育つのを直属上司の個人に依存せず、仕組みと他者の協力を得ながら、会社全体で取り組んでいます。
このような仕組みがあると上司は直接的に教え、育てる立場から、本人が仕組みで認められ、合格したり、或いは恥をかかないように「支援・応援」する立場に変わります。
真正面から対立する様に向い合うのではなくて、隣で同じ方を向きながら励ます光景に変わります。教える側は疲弊もしませんし、期待を裏切られもしません。それどころがお陰様でと感謝されることも多くあります。是非、御社なりの独自の仕組みを考案していただきたいと思います。