見過ごしている、ケタ違いの成長軌道のポイント

平凡な会社をケタ違いの成長軌道に乗せる経営で重要ポイント以下2点について考え方、エッセンスとそれを見出した出来事ともにお伝えします。

23.「中小企業の“社員と経営者の知識・意識格差”」

■目には見えにくい経営者と社員の二重の格差

私が知っている中小企業の経営者のほとんどの方が大卒です。特に二代目・三代目の経営者は有名大学を卒業され、大学院卒の方も多いです。しかも会社を継ぐ前に大手企業の勤務経験があり、さらに会社に入ってからも後継経営者の講座や勉強会に参加され、異業種交流会の会員にもなっています。経営学の基礎理論・実践論も勉強されていて、読書量も多いですし、異業種交流会では経営改善の事例発表もこなしています。

一方、社員さんの多くは高卒です。(企業規模は中小企業でもカーディーラーや大手企業の関連会社・代理店は様子が違います)。実務は頑張っているし会社の業績を支えていて「なくてはならない存在」なのですが、読書・勉強への苦手意識は根強いです。せっかく会社が申し込んでくれた外部研修も「やらされ感」いっぱいで参加し、研修報告書もなかなか出してくれません。

経営者は「会社経営のことを相談しても話が通じない」と言い、社員の方は「社長は小難しい話ばかりして何が言いたいのか分からない」とぼやきます。これが「知識格差」です。

経営者は経営環境の変化を情報と肌感覚で感じ取り、将来への危機感を持ち、新しい取り組みをいち早く開始しなければと考えます。社員は「今日・明日のことでも大変なのにまた余分なこと持ち込んできた」と迷惑な話とさえ思います。これが「意識格差」です。

知識格差と意識格差の二重の格差が大きく厚い壁となって経営者の行く手を阻みます。

 


■2つの対応策

一つ目は社員の知識・意識レベルに合わせて、社員の言う「余分なこと」をしない事です。無理を言って社員が会社を辞めると言い出したら面倒です。特にベテラン社員の個人的な技術・ノウハウは誰にも継承されてないのでへそを曲げられたら直ちに業績に影響します。

 

二つ目は経営者自ら手間と時間をかけて本気で対話し、教育する事です。基本的な経営の考え方や競争力を強化することの必要性を繰り返し、手を変え品を変えて教え、ミリ単位の理解や変化を積み重ねます。そして社員に「あなたはどう思う」の問いを投げかけ、どんなことが返ってくるかと楽しみに「待ち」ます果てしなく長くて、終わりが見えないと思えるくらいの取組みです。

経営者からの問いに対して社員はたいてい無言・無反応です。経営者からすれば「あなたならどう思う」と意見を聴いているだけ、正解も間違いもない、何でも言ってくれればいいのにと思います。しかし社員はその問いには「正解」があって、それを答えないと社長からダメだしされると恐れてしまいます。この状態をはたから見ると、社長の問いに社員が思考停止しているように見えますが、実は頭の中はフル回転で見つかるはずもない「正解」を探し求めているのです。

経営者は「あなたの考え・意見を聴いている」のであって、正解も間違いもなくダメ出しもペナルティーもないという安心して話してもらえる状態を作ることを重視し、手間と時間をかけ、見込むことのできない相手にとって必要な時間を「待つ」ことです。

そして最も重視すべきは経営理論や戦略フレームワークの知識ではなく「社員さん自身が仕事の経験を通じて学んだ経験知を取り出し、自分の言葉で表現し、文字に残すこと」をできるようにすることだと考えます。そして、社員さんから出てきた考え・言葉や文字を大切に扱います。それは口頭での対話よりも深みのある文書対話になります。

時間と手間をかけることは愛情ですし、その人の考え・言葉・文字を大事にするということは、待遇を良くして大事にするより、その人の内側・人間性を認め相手の心を満たし、嬉しさは長続きします。

何十年も配置転換はなく、研修も極力避けて、同じ現場・同じ仕事という狭い世界で目の前の仕事に専念してきたのですから、そこまで行くのにも時間が掛かかります。しかし、経営者ご自身に費やされた経営を学ぶ時間や費用に比べれば大した時間・費用ではないし、その過程を通じてお互いを理解し認め合う関係が形成されれば一生ものの無形の財産です。そして粘り強く継続する文書対話から社員さんの想像以上の能力や成長に驚かされるその時は、いつかかもしれませんが案外早いかもしれません。

 

以上2つの方法を挙げさせていただきました。どちらを選択するかは経営者のお考え次第なのですが、前者は間違いなく企業として衰退していきますのでお勧めできません。そして後者は良い方向へ向かった事例を私は数多く見てきました。